インタビュー Vol.2

インタビュー Vol.2 | インタビュー

子宮筋腫の治療について専門医からお話をうかがいます。

Vol.2

子宮筋腫の腹腔鏡下手術

~その利点と難点 前編

倉敷成人病センター・理事長

安藤 正明 先生

安藤 正明 先生

子宮筋腫は35歳以上の女性の20~30パーセント、40歳以上では40~50パーセントにみられる頻度の高い疾患です。近年では、治療の選択肢が増え、より低侵襲な治療法が開発されています。手術療法では、体への負担が少ないとされる腹腔鏡による手術が増えてきました。今回は、婦人科分野での腹腔鏡下手術の症例数が、国内トップクラスの倉敷成人病センターの安藤正明理事長に、子宮筋腫の腹腔鏡下手術についてお話をうかがいました。このインタビューは前編後編に分けてお届けいたします。

倉敷成人病センターの婦人科では、大変多くの腹腔鏡下手術を行っていらっしゃるそうですね。

2018年は約1650例の婦人科手術を腹腔鏡下で行いました。
日本では1990年代の初頭に一部の医療機関で婦人科の腹腔鏡下手術が始まりました。当初は器具や技術が未熟な部分があり、腸の穿孔や血管損傷が起こる例がありました。当センターの婦人科は、直ちに導入することはありませんでしたが、1997年に、開腹手術で行っていた子宮全摘術を腹腔鏡下で再現するという独自の工夫を加えて、腹腔鏡下子宮全摘術を開始し、翌年には悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術を始めました。
現在では婦人科疾患の腹腔鏡下手術を年間約1650例、系列病院も含めると1950例行っています。子宮筋腫の手術には、子宮を切除する「子宮全摘術」と、筋腫だけを取り除き、子宮を残す「子宮筋腫核出術」の2つの方法がありますが、子宮全摘術(子宮腺筋症なども含む)は2018年1年間で850例、子宮筋腫核出術は250例を、腹腔鏡下手術で行いました。当センターでは腹腔鏡下手術の途中から開腹手術に移行することは非常に少なく1000例に1例くらいです。

あらためて腹腔鏡下手術とはどのような治療ですか?

おなかに開けた小さな穴から器具を入れて行う手術です。
腹腔鏡下手術は、おなかに大きな傷をつけずに手術するというコンセプトで始まりました。
従来の腹部の手術ではおなかを10~12センチほど切開し、直接臓器を目で見て、手で触れながら直接メスで切る、針と糸で縫合するといった手技を行います。これに対して、腹腔鏡下手術は、おなかに開けたいくつかの小さな穴へ、腹腔鏡と鉗子※(かんし)などの細長い器具を差し込み、テレビモニターに映る映像を見ながら、専用の器具で臓器を切ったり剥離したり、縫合したりする手術方法です。そのため視野を確保するために、体に害のない炭酸ガスを注入しておなかをふくらませて行います。
おなかに開ける穴の数や位置にはいくつかパターンがあり、医療機関や疾患によって異なります。

※鉗子:開腹手術でのピンセットに相当する手術器具。主にものをつかんだり、けん引する際に使われる。


▼腹腔鏡下手術でおなかに開ける穴の位置 (代表的な2例)
腹腔鏡下手術でおなかに開ける穴の位置 (代表的な2例) 腹腔鏡下手術でおなかに開ける穴の位置 (代表的な2例)

当センターで子宮筋腫の手術をする場合は通常、3~10ミリの穴を4ヵ所に開けています。まず、おへそに5~10ミリの穴を開け、腹腔鏡のスコープを入れて、おなかの中の映像をテレビモニターに映し出します。そのほか下腹部の中央と左右に3つの操作用の穴を開け、それぞれに鉗子を入れて操作します。
術者は患者さんの左側に立って2本の鉗子を操作し、助手は右側に立って左手でスコープを支え、右手で1本の鉗子を持って、術者のアシストをします。

腹腔鏡が誕生した当初は、お腹の中の様子は術者だけしか見ることができなかったため、助手はアシストしにくいものでした。その後、腹腔鏡のスコープにビデオカメラがつけられ、スタッフ全員がテレビモニターで同じようにお腹の中の映像を見て、情報を共有できるようになったことで腹腔鏡手術は飛躍的に進歩しました。昔はそのカメラも、テレビ局にあるような大きなカメラを肩にかついでいたのですが、現在では非常に小さくなりました。術者から指示を受ける助手も補助をしやすくなりました。

婦人科領域では、子宮筋腫のほかにどのような疾患で腹腔鏡下手術が行われますか?

卵巣腫瘍や子宮がんなど、幅広い疾患が対象となります。
一般的にいうと、子宮外妊娠、卵巣のう腫、子宮内膜症、子宮頸がん、子宮体がんなどが腹腔鏡下手術で行われています。

腹腔鏡下手術のメリットを教えてください。

傷が小さく、痛みが軽く、回復が早い。患者さんの身体への負担が少ない手術です。
腹腔鏡下手術のメリットは、開腹手術に比べて傷が小さく、術後の痛みも軽く、術後の回復が早いため入院期間も短くなりました。また、開腹手術に比べ、術後に癒着が少なく、腸閉塞になりにくいのも大きなメリットです。

腹腔鏡下手術のデメリットとしてはどのようなものがありますか?

手術の手技が難しく、十分なトレーニングを積んだ医師の手で行う必要があります。
デメリットは、手術手技の難易度が高く高度なテクニックを要するため、トレーニングを積んだ医師でないと安全に手術を行えないという点です。開腹手術よりも手技の経験の差は大きくなります。
開腹手術では、実際の臓器を見ながら、直接メスで切ったり糸と針で縫合したりできますが、腹腔鏡下手術では、モニターを通して限られた範囲の映像を見ながら、差し込んだ専用の器具だけで行わなければなりません。鉗子の柄を右に動かすと先端は左にといったようにテコのように動きます。また、傷の縫合では2つの器具を同時に協調させて操作する必要があります。一般に普及しているカメラ映像は2次元のため遠近感、立体感が得られにくいなど、開腹手術とは全く異なる手技の難しさがあります。
腹腔鏡下手術は熟達するまでに十分なトレーニングが必要になります。

腹腔鏡を用いた子宮全摘術について教えてください。

良性の場合、全摘術は今後妊娠を希望しない人が対象となります。
悪性の子宮疾患は基本的に全摘が必要ですが、良性の子宮筋腫の手術では、子宮ごと切除する「子宮全摘術」と、子宮を残して子宮筋腫だけを切除する「子宮筋腫核出術」という2つの方法があり、どちらも腹腔鏡下で行えます。
腹腔鏡で行う子宮全摘術の適応に明確な決まりがあるわけではありませんが、大きな筋腫は腹腔鏡下手術の対象としていない施設もあり、医療機関ごとに独自の目安のもとに行われています。
当センターでは、独自の手技の工夫によって1キロ以上(最大7キロ)の巨大な筋腫の腹腔鏡下子宮全摘術を経験しています。

安藤 正明 先生

手術の際は、全身麻酔に加えて、硬膜外麻酔で局所の痛みのコントロールをします。硬膜外麻酔を使うと、術中の血圧コントロールにもプラスになり、術後の痛みも取ることができます。
当センターで腹腔鏡下子宮全摘術にかかる時間は、筋腫の大きさにもよりますが、通常は40~60分くらいです。手術翌日から歩いていただいて、入院期間は1週間です。

子宮全摘術を行うと、子宮筋腫核出術と異なり子宮筋腫の再発は起こりません。生理がなくなり、妊娠はできなくなります。卵巣は残るので、女性ホルモンの分泌には影響がないといわれています。

子宮全摘術は今後妊娠を希望しない人、核出術が向かない人が対象となります。

腹腔鏡を用いた子宮全摘術の術式について教えてください。

尿管損傷などが起こらないように注意しながら子宮全体を取り出します。
腹腔鏡下子宮全摘術には、全腹腔鏡下子宮全摘術(TLH)と腹腔鏡補助下腟式子宮全摘術(LAVH)の2つの方法があります。前者は、切除から縫合まですべてを腹腔鏡下で行い、切除した子宮を腟から取り出す術式です。後者は、腹腔鏡下で子宮上部の靭帯の切断などを行い、子宮下部の付属器や靭帯の切断、子宮摘出、腟縫合は腟から行うもので、「腟式子宮全摘術(腟からの操作により子宮を全摘する方法)」に近い術式です。

当センターでは腹腔鏡下手術を始めたときから前者の術式、回収だけを腟から行い、それ以外のすべての手技を腹腔鏡下で行う全腹腔鏡下子宮全摘術で行っており、より高度な腹腔鏡技術が要求されています。最初はめずらしい手術法でしたが、最近ではトレーニングを積んだ施設で多く行われております。

手術では、おなかの穴に入れた鉗子で、子宮を支えている左右の靭帯と、子宮に血液を送っている子宮動脈および細かい血管を焼いて止血しながら切断し、子宮を外していきます。このとき、すぐ近くの腹膜の下に走行している尿管(腎臓から膀胱に尿を送る管)を、傷つけないように注意しながら、慎重に器具を操作して剥離していく必要があります。尿管の処理は婦人科の手術でもっとも気を遣うところで、トレーニングを積んでいかなくてはなりません。
こうして、子宮の両サイドおよび周辺の靭帯や血管を外した後で腟から切り離し、子宮を鉗子で把持して腟から取り出します。このとき、子宮が通常の大きさ(卵大)なら、スムーズに出てきますが、大きい場合は、腟側からはさみを使って子宮を削るか、小さくして回収します。子宮を取り出した後、腟の奥を縫合します。

後編では、腹腔鏡下子宮筋腫核出術、これからもっと広まっていくであろうロボット支援手術などについてうかがいます。

バックナンバー