インタビュー 2019年11⽉公開

インタビュー 2019年11⽉公開 | インタビュー

子宮筋腫の治療について専門医からお話をうかがいます。

2019年11⽉公開

子宮筋腫の腹腔鏡下手術

~その利点と難点 後編

倉敷成人病センター・理事長

安藤 正明 先生

安藤 正明 先生

婦人科分野での腹腔鏡下手術の症例数が、国内トップクラスの倉敷成人病センターの安藤正明理事長へのインタビューの後編では、腹腔鏡下筋腫核出術についてのお話を中心にうかがいました。子宮は残せるものの、子宮全摘術よりも手技が複雑になるという腹腔鏡下筋腫核出術。また、今後、ますます広まっていくであろうロボット支援手術、術後の注意点などについてもお話をうかがいました。

腹腔鏡を用いた子宮筋腫核出術について教えてください。

子宮は残して筋腫をひとつずつ取り出す手術です。
子宮筋腫核出術は、筋腫だけを部分的に取るのだから簡単に済むのだろうと思っている患者さんが多いようですが、じつは細かい操作が多くなり、全摘術に比べて手術時間が長く、出血量も多くなりがちです。腹腔鏡下手術は狭い空間で行うため、あまり大きすぎる筋腫、10個以上ある数の多い筋腫は切除後の子宮の縫合にも時間がかかり、その間に出血量も増加するため、腹腔鏡下出術にはあまり向きません。

もう1つ注意したいのは、良性の子宮筋腫だと診断されていても700例に1例くらいは、悪性腫瘍(肉腫)の可能性があることです。急に筋腫が大きくなる、すでにとても大きいものなど、悪性腫瘍が疑われる場合は特に慎重な対応が必要となり、子宮筋腫核出術は行うべきではないでしょう。

当センターでは、子宮の外側にできる漿膜下筋腫、子宮の筋肉の中にできる筋層内筋腫、子宮内腔にできる粘膜下筋腫、どのタイプでも腹腔鏡下で行う核出術の対象としています。医療機関によっては粘膜下筋腫を避けるところもあります。

麻酔は、子宮全摘術のときと同様に、全身麻酔と硬膜外麻酔を使用します。

当センターでは、腹腔鏡下子宮筋腫核出術の手術時間は、筋腫の大きさと個数で大きく変わりますが、長くて1時間半程度です。入院期間は、全摘術と同じで1週間です。

腹腔鏡下筋腫核出術は子宮を温存することを目的とします。開腹手術に比べて回復が早く、手術の翌日には食事や歩行が可能です。傷が小さく、癒着も起こりにくいのが特徴です。退院後の日常生活への復帰も早いのがメリットです。

腹腔鏡下子宮全摘術より困難性の高い手術ではありますが、妊娠が可能な年齢の方で、妊娠を希望し、筋腫が大きすぎず、数が多すぎないような方に向いています。

腹腔鏡下子宮筋腫核出術の術式について教えてください。

腹腔鏡下手術では、縫合と回収がとても難しい操作となります。

腹腔鏡下子宮筋腫核出術

子宮筋腫核出術では、筋腫を抜き取り、抜き取った部分を縫合するという操作を細い鉗子の先端を動かしながら、いろいろな角度で繰り返し行わなければなりません。そのため、筋腫が大きく数が多いほど、手術に時間がかかりますし、それに伴い出血量も多くなります。体腔内で縫合を行い、糸を結ぶという操作自体が難しいので、かなり難易度の高い手術といえます。
当センターでは、核出した子宮筋腫は腟の一番奥の後壁を一部切開して、筋腫に糸をかけてそこから体の外に取り出します。10センチもある大きい筋腫はそのままでは回収が困難なため、切れめを入れ変形させてから回収します。

このように、腹腔鏡下子宮筋腫核出術は、開腹手術と異なり、限られた術野と狭い空間の中で筋腫の核出、縫合、回収、すべてを行わなければならず、術者にとっては三重苦ともいえます。術者の技術にもよりますが、子宮筋腫の大きさは8センチ以上、5個以上となるとかなり困難です。
MRIの画像で確認できた筋腫が5個でも、実際に手術を行ってみると、画像には映っていない小さい筋腫が多数あり、予想の倍くらいあるケースがしばしばあり、これが再発の元となります。

腹腔鏡下子宮筋腫核出術では、輸血することはありますか?

術前に自己血を保存する施設もあります。
腹腔鏡下子宮筋腫核出術では、腹腔鏡下全摘術に比べて出血が多いとはいっても、子宮筋腫の数や大きさ、その人の血流によってもまったく違います。ほとんど出血しない人もいれば、300ccや500cc出血する人もいます。体腔内での縫合のスピードにも関係します。当センターでは、輸血が必要となったことはありませんが、医療機関によっては、自己血を貯血して輸血に備えるところもあります。

子宮筋腫が大きい場合、事前に薬物療法で縮小させることはありますか?

多発している筋腫の場合、小さな筋腫はさらに小さくなり見逃すこともあります。
GnRHアゴニストなどを事前に投与して、子宮筋腫を小さくしてから手術を行う医療機関もあります。当センターでも、特別大きな子宮筋腫に対しては行うこともありますが、あまり多くはありません。子宮筋腫が多発している場合に薬物療法で縮小させると、小さな筋腫はさらに小さくなり、手術時に見つけられなくなるため再発率が高まるという報告もあり、ケースバイケースになると思います。

安藤 正明 先生

多発性筋腫の場合、子宮筋腫核出術を何回かに分けて行うことはありますか?

基本は1回で、できるかぎり核出します
子宮筋腫の数が多い場合や、切除しにくい位置にある場合でも、2回に分けて手術を行うということはまずありません。1回の手術で、症状に影響していると考えられる大きな筋腫から優先的に、取れるものは全部取っておくのが基本です。良性の疾患である子宮筋腫の手術を、2回も全身麻酔をかけて行うのは患者さんにとっても受け入れにくいと思います。

もう1つ、子宮筋腫が多数あった場合に、いくつでも切って取ればいいかどうかという問題もあります。子宮は軟らかい筋肉ですが、切った後でいくらきれいに縫合しても、線維化した瘢痕(はんこん)が残ります。その部分は硬くなり伸縮しません。そのため、手術後に妊娠して子宮がどんどん大きくなった場合、子宮破裂を起こす危険性が出てきます。子宮破裂の頻度は非常に少ないのですが、万一起こると胎児の救命が難しく、母体も命の危険にさらされます。子宮の傷が多くなればなるほど子宮破裂のリスクは高まると考えられますから、筋腫が多い場合はたくさん取ればいい、とは言い切れないわけです。ですから、特に症状に関係ない小さな筋腫は取らないという選択もあり得ます。

再発した場合、再び腹腔鏡下で手術をするのは可能ですか?

可能ですが、手術の難易度は高くなります
子宮筋腫核出術では、筋腫が小さすぎて取りきれない場合もありますし、小さな芽のようなものまでは核出できないので、何年か後に再発することはしばしばあります。1個だけでも再発率は20%といわれています。特に、10個以上の多発性の筋腫は再発しやすいと考えられます。再発の時期については、筋腫の大きくなるスピードが違うため、2年後に再発してしまう人もいれば、多発性の筋腫でも閉経までまったく大きくならないケースもあり、一概にはいえません。

再発した場合には、その時点でまた治療を検討します。再度、腹腔鏡下手術で子宮筋腫核出術、または子宮全摘術を受けることも可能です。ただ、1度手術をしている場合は、腹腔鏡では少ないとはいえ癒着が起こることがあり、筋腫を取った跡に腸が癒着しているような場合は、腸を剥離した後、腸の穿孔による腹膜炎を起こすリスクもあり、手術の難易度はさらに高くなります。最近では手術時に癒着防止剤などで癒着を予防することが増えてきました。

なお、閉経が近づいている年齢の患者さんの場合は、閉経後は筋腫が大きくなることもないので、経過観察をすることもありますし、また出血などの症状が強いが手術を受けたくないという方には、UAE(子宮動脈塞栓術)など、手術以外の治療法を検討することもあります。

手術後の注意点を教えてください。

シャワーは当日からOKです。性生活は3ヵ月以上たってからに。
全摘術、核出術にかかわらず、腹腔鏡で手術をされた場合、おなかに注入した炭酸ガスが貯留するため、術後2、3日は肩のあたりが痛いことがありますが、それも自然に消えていきます。炭酸ガスは、1週間以内に吸収されるのが普通です。

また、術後に発熱することがありますが、2、3日で熱が下がれば心配はいりません。通常、術後数日目に炎症反応などをチェックして、感染の有無を調べます。ただし、長期間高熱が続く場合は、感染の心配があります。

また、皆さんは、手術の後は入浴禁止と思われているようですが、じつは手術当日に入浴してもいいのです。傷の痛みや感染の心配な方は、シャワーを浴び、石けんで傷口を十分に洗っていただければよいでしょう
腹腔鏡下で手術した場合、特に全摘のケースに多いのですが、性生活をあまり早くに再開するとそれがきっかけとなって、腟を縫合したところが開いてしまうことがあります。頻度は子宮全摘術で0.4パーセントくらいと、それほど高くはないのですが、開腹手術や腟式手術に比べて、腹腔鏡手術やロボット支援手術(後述)では多いといわれています。筋腫核出術ではさらに頻度が少なくなります。
傷口は、くっつくのに3ヵ月ぐらい、完全にかたまるまでに6ヵ月程度かかるので、性生活はできれば6ヵ月以降、難しければ3ヵ月以降に再開していただくのが理想的です。万一傷口が開いてしまった場合は、腟から再縫合ということになります。

近年では、ロボット支援手術による子宮全摘術も行われていますね。

子宮筋腫の子宮全摘術、初期の子宮体がんで保険適用になっています。
ロボット支援手術は、3Dの拡大画像を見ながら、患者さんから離れたコンソールで操作すると、ロボットのアームが動き、術者からは離れた位置にいる患者さんの手術ができる手術です。繊細な動きが可能で日本でもいろいろな手術に用いられ、婦人科では、子宮筋腫の子宮全摘術、初期の子宮体がんで保険適用になっています。
ロボット支援手術では、ロボットのアームの動きが人間の関節よりも自由に動ける点や、体の中の映像が拡大して映し出されるため細かい作業がしやすい点などがメリットです。ただ、腹腔鏡下手術とはまた違った難しさがあります。

また、ロボットの機械自体が高額で、莫大な設備投資と維持費がかかります。ですから、ロボット支援手術をする医療機関も限られます。

ロボット支援手術は、航空機のパイロットのトレーニングと同様に、3Dで実際の手術と同様の手技をシミュレーションすることができるので、医師の技術向上のためには理想的です。

ライト兄弟が飛行機を開発してから100年ちょっと、現在の飛行機の性能はけた違いに進歩しました。最初やっと40メートル飛んだものが航空工学の発展で、いまや宇宙へと行くという時代です。人間はいくら努力しても機械の力を借りないと100メートル時速40キロ以上では走れません。人間本来の能力には限界もあるのです。ロボット支援手術は人間が機械の力を使って進化していくという可能性を含む、将来性に富んだ手術といえるでしょう。当センターでも、年間300例を目標に続けていく予定です。

子宮筋腫の治療の選択について、患者さんにアドバイスをお願いします。

手術以外の方法も考慮して、適切な治療を受けてください。
近年では、手術にしても開腹手術や腹腔鏡下手術、ロボット支援手術などがあり、また、手術以外の治療法にもいろいろな選択肢があります。治療を選ぶ際には、年齢、妊娠を希望するかどうか、それぞれの社会的背景や、筋腫の大きさや数などを総合的に判断して、いろいろな治療法のメリット、デメリットを考えながら選択することが大切です。
腹腔鏡下手術を希望する方は、手術の症例数が多く、トレーニングを重ねた医師が手術を担当している医療機関を選ぶことをお勧めします。

また、手術以外の治療法が選択できないのかも検討しましょう。「45歳で子宮筋腫が30個ほどある、妊娠は望まないが子宮を残したい」という場合は、保存的治療法のUAE(子宮動脈塞栓術)も選択肢の1つになるでしょう。UAEの場合、子宮筋腫を取り出しませんので、病理検査ができません。急に大きくなってきた筋腫など、悪性の可能性があるものは避けたほうがよいでしょう。
担当の医師とよく相談して、適切な治療法を選択してください。

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