子宮筋腫の低侵襲治療について専門医からお話をうかがいます。
2023年09⽉公開
子宮筋腫の低侵襲治療
東京医科大学病院 産科・婦人科 講師
伊東 宏絵 先生
近年、子宮筋腫の治療法は、開腹が不要、もしくは最小限に抑えた「低侵襲治療」が増えてきています。術後の傷痕も小さく、入院期間も比較的短い低侵襲治療ですが、患者さん一人ひとりの症状によって選択できる治療法は異なります。子宮筋腫の低侵襲治療について、東京医科大学病院 産科・婦人科 講師 伊東 宏絵 先生に伺いました。
東京医科大学病院では、婦人科領域の疾患でどのような低侵襲手術を行っていますか?
東京医科大学病院は低侵襲手術を早期に導入し、積極的に取り組んできました。
世界においては1987年に腹腔鏡手術の本格的導入が始まりました。当院では1991年に腹腔鏡下手術、その翌年に子宮鏡下手術を導入しました。2016年からは子宮筋腫に対するカテーテル治療「子宮動脈塞栓術(UAE)」を開始し、平均して月に2〜3例施行しています。2009年以降ロボット手術にも力を入れており、低侵襲手術に対する思いは強いと思っています。
子宮筋腫の低侵襲手術にはどのようなものがありますか?
主な手術法には、子宮鏡下手術、腹腔鏡下手術、小切開創手術があります。
どの手術を選択するかは、患者さんのご希望、筋腫の大きさ・発生部位・数、患者さんの体型に基づいて最終的には医師が判断します。患者さんが内視鏡下での手術を希望されていても、筋腫の大きさや状態によっては難しいこともあるからです。
子宮鏡下手術は、主に過多月経や貧血などの症状がある粘膜下筋腫(子宮の内側をおおう粘膜=子宮内膜の内側に発生する筋腫)に対して行います。手術時間は1時間程度で、腟から子宮内にループ状の電気メスを先端にセットした子宮鏡(レゼクトスコープ)を挿入し、筋腫を切除していきます。この手術の最大の特徴は、お腹に傷が残らないことです。術後の疼痛も少なく、術後1日程度で退院することができます。
非常に稀ですが、子宮内腔を膨らませるために注入する水が血管に入ることで血液中のナトリウム濃度が低下し、意識障害や血圧低下、悪心・嘔吐などが起こる「水中毒」や、子宮に穴が空いてしまう子宮穿孔などの合併症が起こることがあります。
次に、腹腔鏡下手術は子宮筋層にできる筋層内筋腫、子宮の外側表面をおおう漿膜の内側にできる漿膜下筋腫に対して行われることが多い手術です。腹腔鏡下手術では、お腹のなかに炭酸ガスを注入して腹腔内を膨らませる「気腹法」と、専用の器具でお腹の皮をつまみ上げる「皮下鋼線吊り上げ法」という方法があります。一般的には気腹法を用いた手術が多いですが、当院では皮下鋼線吊り上げ法による手術を行っています。
腹腔鏡下手術では、子宮から筋腫を電気メスや専用の器具を用いて切り離したのち、子宮の縫合を行います。子宮温存を希望される患者さんは、将来的に妊娠を望む方が多いため、妊娠・出産に影響が出ないよう細心の注意をもって治療を行います。全体の手術時間は、筋腫の数などにもよりますが平均して2~3時間ほどです。
筋腫のサイズが大きい場合、多くは開腹手術となりますが、より患者さんの負担が少なくなるように小切開創による開腹手術を行える場合があります。小切開創手術は6cmほどおなかを切開して筋腫を切除します。手術は1時間ほどで終わります。12~15cmほどおなかを切開する開腹手術と遜色のない治療を行うことができます。
東京医科大学病院では、非常に筋腫が大きい場合は開腹手術、そこまで大きくない場合は小切開創手術、子宮の内側をおおう粘膜(=子宮内膜)の内側に発生する粘膜下筋腫が子宮の内腔にあまり突出していない場合は、腹腔鏡下手術・子宮鏡下手術のうちどちらかを検討します。