子宮筋腫の子宮動脈塞栓術(UAE)~治療の実際と対象となる患者さん(前)
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子宮動脈塞栓術(UAE)について教えてください。


2020年5月公開
2021年11月更新

子宮筋腫の治療について専門医からお話をうかがいます。

2020年05⽉公開

子宮筋腫の子宮動脈塞栓術(UAE)

~治療の実際と対象となる患者さん 前編

久留米大学医学部放射線医学講座

准教授 小金丸 雅道 先生

准教授 小金丸 雅道 先生

子宮筋腫に対する治療にはいくつかの選択肢があり、より低侵襲な治療法が開発されてきました。国内では2014年に子宮動脈塞栓術(UAE)が保険適用となりました。UAEは、足のつけ根に開けた小さな穴から細い管(マイクロカテーテル)を通して、子宮動脈に塞栓物質を詰めることで子宮筋腫を縮小させ、子宮筋腫に伴う症状を緩和することを目指します。画像下治療(IVR)のひとつでもあるUAEについて、IVR専門医であり、UAEの治療実績の豊富な久留米大学医学部放射線医学講座の小金丸雅道先生にお話を伺いました。このインタビューは前編後編に分けてお届けいたします。

子宮動脈塞栓術(UAE)について教えてください。

子宮動脈にカテーテルを使って塞栓物質を入れて子宮筋腫の縮小と症状の改善を目指す治療です。

UAEは「Uterine Artery Embolization」の略で、日本語では「子宮動脈塞栓術」と呼ばれます。足のつけ根から細い管(カテーテル)を入れて、子宮筋腫に栄養を与えている子宮動脈に塞栓物質を入れることで血流を止め、筋腫を縮小させる治療法です。筋腫への血流を止めることで、さまざまな症状を改善することが期待できます。1995年にフランスで始まった治療で、現在では欧米を中心に多くの国で行われています。

UAEの特徴として、全身麻酔はせずに局所麻酔のみで行うこと、お腹にメスを入れずに傷は足のつけ根の5ミリ程度であること、X線(レントゲン)透視下で体の中を透かしみた画像を確認しながら行う治療であることが挙げられます。つまり、患者さんの体への負担がより少ない治療といえます。UAEはIVRと呼ばれる治療のひとつで、私たちIVR専門医が治療を行っています。

IVRとはどのような治療ですか?

画像診断装置で観察しながら行う低侵襲性治療で、多種多様な疾患に対応します。

CTやX線、MRI、超音波(エコー)などの画像診断装置で体内の様子をみながら、カテーテルなどを挿入して行う治療を総称して「IVR(Interventional Radiology:画像下治療)」と呼んでいます。X線などの画像診断装置を使うため、がん治療などで行う放射線治療と勘違いされがちですが、IVRと放射線治療は違います。放射線を照射してがん細胞を攻撃する放射線治療に対して、IVRで使用する画像診断装置は治療をサポートする画像を映すためのもので直接病気の治療を行うものではありません。

歴史的には、1960年の脳動静脈奇形に対する動脈塞栓術や、1967年にがん治療に行われた画像下治療が最初だとされています。その後、画像診断装置やカテーテルなどのデバイス(医療機器)が進歩したこともあり、1980年代から対象疾患が拡大。体にメスを入れないで済む低侵襲性治療として世界的に広がっていきました。

画像下治療は非常に幅が広く、大きく分けると、血管を介して行う「血管系治療」と血管を介さずに行う「非血管系治療」という2種類があります。

血管系治療のなかには血管を詰める、血管を広げる、血管に詰まった血栓を溶かすといった治療があります。
また、救命救急の現場などでは大量出血を止める方法としてIVRが行われることがあります。産後出血の子宮弛緩出血、あるいは腟裂傷などで大量の出血がある場合、塞栓物質を詰めて止血をすることが多くあります。

非血管系治療としては、生検のための組織採取や、直接腫瘍まで針を刺してラジオ波で焼く、凍結療法で組織を壊すといった検査・治療も含まれます。いずれの場合も画像診断装置による透視下に行うということが共通しています。
※生検:生体の組織の病変の一部を切り取って、病理組織学的に検査・診断を行うこと。

IVRに使われるのはどのような機器ですか?

カテーテルと血管造影装置に加えて、IVR専門医の熟練した技術が不可欠です。

血管系治療で使われているのは、極めて細くて柔らかいカテーテルです。治療する部位や治療内容によって使用するカテーテルのサイズは異なりますが、もっとも細いマイクロカテーテルは直径が0.4ミリしかありません。細いマイクロカテーテルがあれば、細い血管に届かせて精度の高い治療をすることも可能です。

もうひとつ、IVRを行う上でとても重要なのが血管造影装置です。血管造影装置は血管に造影剤を入れて、その造影剤が血管の中を流れていく様子を撮影し、血管の形や走行(血液がどう流れているか)などを検査する機械で、いわば血管の地図をモニターに映しだす機械といえます。ここ数年、血管造影装置の性能が特に向上しています。以前であればみえにくかった細い血管もクリアにみえるようになりました。たとえていうならば、昔のブラウン管テレビが最新の8K画像になったようなものです。機器類の進歩のお陰で、より安全に治療できるようになったのです。

それらの進歩に加えて、安全な治療のためには、IVR専門医の熟練した技術が不可欠です。画像の診断が正確にでき、IVRのトレーニングをきちんと受けていることが必要です。IVRでは傷は5ミリ程度で縫合の必要もなく、数日で退院できるため簡単な手技に思われるかもしれませんが、カテーテルを入れるべき位置などを見極めるテクニック、治療中に患者さんの全身管理をして、痛みをはじめとしたさまざまな状態に対応できる知識と経験がなければいけません。

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