子宮筋腫と診断されたら~治療のタイミングと治療選択
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子宮筋腫と診断されたら~治療のタイミングと治療選択 | インタビュー


2018年10月公開
2021年11月更新

子宮筋腫の治療法は変わってきているのでしょうか?

侵襲性の少ない治療が増えてきました。
子宮筋腫の治療というと手術で子宮を全摘すると思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、子宮筋腫の治療の選択肢はいくつもあり、ここ10~20年で、患者さんの体に負担をかけない低侵襲な治療法が増えてきました。
たとえば、手術をするとしても、以前はおなかを切る開腹手術が多かったのですが、最近では、可能なものは腹腔鏡手術(おなかにいくつか穴を開け、カメラや器具を入れてモニターを見ながら手術する方法)や腟式手術(腟から手術器具を入れて手術する方法)が広く行われています。開腹手術より、おなかの傷が小さくてすみます。
また、子宮を残したいという方には、子宮筋腫核出術(子宮筋腫だけを取り除く手術)が行われるようになっています。

ただし、開腹手術ではなく腹腔鏡手術をすれば侵襲が少ないかというと、必ずしもそうとはいえません。大きい筋腫を6~7時間もの長時間かけて腹腔鏡手術で取り除くのは、逆に患者さんの負担が増すことになります。また、筋腫核出術では、全摘手術より出血のリスクが高くなります。

手術以外の方法で子宮筋腫を治療することはできますか。

子宮動脈塞栓術(UAE)が保険診療でできるようになりました。
子宮の温存を希望し、手術も望まない方には、子宮動脈塞栓術(UAE)という方法があります。UAEは、足のつけ根の血管から細い管を入れて子宮動脈に塞栓物質を送り込み、子宮筋腫に行く血流を止めて子宮筋腫を壊死させる方法です。栄養を断たれた子宮筋腫はだんだんと小さくなり、それにしたがって症状も改善していきます。
UAEが最初に報告されたのは1990年代です。欧米を中心に普及し始めてから20年以上が経ちました。日本では2014年に、一定の条件を満たす施設では保険診療で治療を受けられるようになりました。
UAEはおなかに傷が残りません。足のつけ根に針を刺すだけですから傷が小さく、子宮を残せるという安心感もあるでしょう。この治療法を選択した患者さんの満足度は非常に高いというレポートが出ています。
ただ、治療後に妊娠を希望する方・妊娠の可能性を残したい方は、妊娠した時のトラブルが多いことが知られており、受けるべきではありません。妊娠は望まないけれども子宮は温存したい、手術は避けたい、入院期間や療養期間を短くして早く社会復帰したい、と希望している方に向く選択肢だと思います。

子宮筋腫の治療に対する患者さんの意識も変わってきたようですね。

年齢にかかわらず子宮の温存を希望する方が増えています。
昔は20代で結婚して妊娠・出産することが普通でしたが、最近では、30代以降の結婚が増え、40歳以降に妊娠を考える方もいます。そのため、40歳以上の方でも子宮を温存したいと希望することが多くなりました。また、子どもは希望しないけれども、子宮は残したいという方も少なくありません。昔は、40歳を過ぎたら子宮を取ることを勧める医師が多かったのですが、現在では患者さんのご意思、希望に沿うようにしています。しかし、ご希望にかかわらず医学的に正しい、とされることもあります。例えば子供のことを考えて子宮を温存されるのであれば、筋腫核出術(手術による子宮温存)が一番良い方法です。

患者さんは希望を医師に伝えておくことは大切です。ただし、先に述べたように子宮筋腫の大きさや場所、手術中の出血量の問題や、治療後の子宮の状態など、さまざまな条件によって、希望通りの治療ができないこともあります。

治療法を決めるときに重要なことは何でしょうか?

どんな治療にもリスクがあることを知っておきましょう。
子宮筋腫の治療法は進歩して選択肢も多くなり、安全性も高くなっています。ただし、どんな治療にも、わずかではあってもリスクがあることを知っておいていただきたいです。
たとえば、子宮筋腫核出術では子宮全摘手術に比べて出血量が多くなるリスクがあります。子宮全摘手術は、子宮につながる動脈を全部止めて切除をするので、出血量のコントロールがしやすいのですが、子宮筋腫核出術では子宮動脈の血管を止めないため出血量が多くなることがあります。当院では、過去10年間にそのような経験はありませんが、術中に大量出血した場合は、子宮全摘手術に切り替えなければならないこともあります。
一方、子宮全摘手術では、子宮の周りにある尿管や膀胱を傷つけるリスクがあります。

また、UAEでは、まれに、壊死した子宮筋腫に感染が生じることがあります。通常は、抗生物質などの投与で対処できますが、ごくまれに、抗生物質(抗菌薬)が効かずに敗血症を招き、命に関わることになることもあります。感染が重症化したケースでは、手術で子宮を摘出することになります。

もちろん、私たち医師は、細心の注意をはらってリスクを最小限にするための努力をし、リスクを上回るメリットをもたらすために治療をしています。どんな治療を受けるのであっても、患者さんはリスクについて医師に確認しておきましょう。治療法の選択にあたっては、どのリスクをもっとも避けたいかを加味して選ぶとよいでしょう。

これから治療を検討する患者さんへアドバイスをお願いします。

まず、何が一番つらいのかを医師に伝えていただくことが大切です。
診察のときに、「子宮筋腫がつらいんです」とおっしゃる方が多いのですが、具体的にどんな症状がつらいか、何に困っているかを教えていただきたいのです。医師は、それが子宮筋腫によって起こっている症状なのか、筋腫と関係なく起こる症状なのかを判断します。子宮筋腫の治療をしてもご自身がつらいと思っておられる症状に変化がなければ意味がないので、その点は重要なポイントになります。
また、治療に関して疑問点があったら、医師に聞き、よくコミュニケーションをとってください。ただし、診察時間には限りがありますので、手際よく質問できるように事前にメモなどにまとめてきてもらえるといいですね。

最初にお話した通り、原則として、子宮筋腫は命にかかわる病気ではありません。したがって、子宮筋腫と診断されても慌てることはありません。つらい症状がなければ経過観察を選択し、治療が必要な場合もいくつかある治療法の中から、医師と相談の上、よりよい治療法を選択してください。

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